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12/21

PM. 3:19

旅する八百屋 ― りんごの赤に込められた物語 ― No.002

私は八百屋として、
産地の農家を訪ね歩く時間が、何より好きだ。
今日の目的地は、
青森のとあるりんご農家。
秋風に、りんごの甘い香りが混じる季節。
サン津軽の収穫が、
最盛期を迎えていた。
 
いつもりんごを卸してくださっている農家の方に、
私たちの努力の結晶とも言える
「りんご飴」を一緒に味わってもらう。
サン津軽は、
シャキッとした歯ごたえと、
ほどよい酸味が魅力の品種だ。
そのまま食べても十分おいしい。
けれど、飴をまとわせると、
食感はがらりと変わる。
外はカリッと。
中からは、果汁がジュワッとあふれ出す。
まるで、
果実そのものが喜んでいるようだった。
 
「飴の硬さに、負けないりんごだね」
農家の方が、そう言って笑う。
その一言に、
丹精込めて育ててきた誇りが、静かににじんでいた。
 
同じサン津軽でも、
収穫時期や熟度によって、味わいは大きく変わる。
たとえば「トキ」という品種。
少し早い時期なら酸味が立ち、
完熟すれば、蜜のような甘さになる。
紅玉は、さらに個性が際立つ。
鋭い酸味が特徴で、アップルパイ向きと言われるが、
りんご飴にすると、爽やかな後味を残してくれる。
 
「酸っぱいりんごはダメ」
そう考える店もある。
けれど私は、
そこにこそ面白さがあると思っている。
酸味のりんご飴。
甘みが主役のりんご飴。
季節ごとに変わる
“味の個性”を生かせば、
もっと心に残る一粒になるはずだ。
 
中井上商店では、
40玉サイズのりんごを使って飴を作っている。
一般的な50玉より、やや大きめ。
その分、果汁も香りも、しっかりある。
「同じりんご飴でも、
八百屋として“果実の質”で勝負したい」
そんな思いで、
今日も私たちは、りんごを選び抜いている。
 
農園では、
木の下に反射シートを敷き、
太陽の光を、りんご全体に当てる工夫がされていた。
おかげで、実は見事な赤に色づく。
一方で、
「葉取らず」と呼ばれる栽培方法もある。
葉をあえて取らず、
日陰で実を育てる方法だ。
見た目は控えめ。
けれど、味は格別。
まさに、
「見た目より中身」という言葉を体現している。
 
八百屋としては、
この“味重視のりんご”を、
どうりんご飴として届けるか。
その可能性を考えるだけで、
心が躍る。
 
実際に、
木からもぎ取った旬のトキを、
その場でかじってみる。
甘みと酸味が、
きれいに混ざり合っていた。
「色づきがいいから、甘いとは限らないよ」
農家の方の言葉に、
りんご作りの奥深さを感じる。
日当たり。
寒暖差。
そして、人の手。
どれか一つ欠けても、
あの一口の感動は生まれない。
 
農家の現場では、
高齢化が進み、
跡を継ぐ人が減っているという。
それでも、
彼らの目は、明るかった。
誰かが食べて
『うまい!』って言ってくれる限り、
年を取っても、まだまだ頑張れる」
その言葉に、
胸が熱くなった。
 
りんごは、
一年に一度しか実らない。
その一瞬に、
すべてを懸ける人たちがいる。
八百屋とは、
ただ野菜や果物を売る仕事ではない。
農家の情熱を、
味とともに届ける
“語り部”のような存在でありたい。
 
“旅する八百屋”の旅は、
まだ続く。
次は、
どんな出会いが待っているのだろう。